さて、それでは詳しい事例を紹介しましょう。
Tさんは現在53歳。約10年前に悪性腹膜中皮腫と診断され、現在も療養生活をしています。ちなみに中皮腫の患者さんで診断から10年生存というのは異例中の異例中の超異例です。正直、「なぜいきてるの!?」と言いたいくらいの感覚です。本人いわく、今の医学でも説明できない状況みたいです。
そのTさん、どこでアスベストを吸ったのかという問題ですが、これがはっきりわからからんのです。
聞くところによれば、18歳から数年間働いた工場の作業場の天井にアスベストが吹き付けてあったということ(直接、アスベストを扱う作業ではなく、こんな状況は日本にあふれていたはずです)。あと考えられるのは学校に通っていてアスベストを吸ったか。これは体育館の吹き付けとか、理科室の器材などが原因と考えられます。
ともかくTさんは特別にアスベストに暴露(吸うということ)した意識がありませんし、決して珍しいことでもありません。
さてTさんが発病したのが40代前半。その発病前のTさん一家の収入は、Tさん―年収約400万円、Tさん妻(身体が弱い体質)―0円、長男(当時15歳前後)―0円、長女(当時10歳前後)―0円、という具合で家計全体の年収は約400万円。貯蓄は0円でした。実は発病前に現在お住まいの家を30年ローンで購入。その頭金に使ってしまっていました(誰も病気になるとわかっていたら家なんて買いませんよね)。
そしてTさんが発病。治療生活がはじまるわけです。幸い、Tさんの治療費は社会保険などでまかなわれていましたので、医療面の負担はほとんどありませんでした(ケースによっては非保険の抗がん剤治療などもあるようです)。治療中の1年間は傷病手当があり年収の約6割は補償されたそうですが、2年目からは会社を辞めて傷病手当もきれました。
この時点でTさんの収入は0円です。
Tさん一家が生活をどのように支えてきたかというと、クレジットカードローンと銀行から借りられるだけのお金を借り、それ以上はTさんの兄弟から借りてきました。ちなみにクレジットカードローンの返済には弁護士も関与するほどの困難を極め(弁護士費用も兄弟からの借金)、兄弟からも発病時から年間約200万円の借金をしてきているとのことで単純計算するとTさんには兄弟からざっと2000万円の借金を現在に至るまでしていることになります。
Tさん一家の困窮状況を象徴するのが、現在20歳になる娘さんの高校進学をTさんは「高校には行かせられない」と伝えて進学を断念させたことです。現在25歳になる息子さんは高校を中退したそうですが「仮に大学に進学したいと言われたら進学させられましたか」という私の問いに「無理だったでしょうね」と答えてくださりました。
さて、現在のTさん一家の収入はというと変わらず0円で、兄弟からの借金と石綿救済法から月約10万円の給付。前述のお子さんたちからの支援はないとのことです(同世代としてそのことを責めるような感覚にはなりません)。まとめると、兄弟からの借り入れ(20万円としましょう)と月10万円の給付の月30万円が月に使えるお金となります。ここから10万円は家のローンの支払いとなり、その他の生活費は兄弟からの借金から支払うことになります。
まさしく家計は火の車状態。
さて、みなさんはこういったアスベスト患者さんの状況をどう考えますか?ひとまず事実関係を。私の意見を述べる前に一まず休憩。

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